接客の心理は男と女のようにデリケート

オンリーワンの評判へ!感性UPの秘策
マニュアルどおりの接客だが、どうも、もたもたして気が利かない。なぜだろう?
どうすれば改善されるのだろうか。いや、そもそも改善できるのだろうか。それはYES! CS(顧客満足)経営の指導で豊富な実績をもつ合谷美智子氏が、接客のコミュニケーションについてアドバイス。

●(株)キャリアブレーン代表取締役 合谷美智子

あいたに・みちこ。東京都出身。立教大学文学部卒。「成城進学スクール」経営を経て(株)ザ・アール教育部長、コンサルティング事業部長、(株)ザ・アール企画取締役などを経て97年に(株)キャリアブレーン設立。CSマーケティングリサーチ&研修、CS経営戦略構築コンサルティング、リスククレームマネジメント教育、感性トレーニング、CSコミュニケーション教育、キャリアコンサルタント養成などを展開。
クライアント実績;JR東海、NTT,大和証券、野村證券、キリンビール、東京トヨペット、キャノン販売、(株)マルハン、朝日生命、(株)ランドロームジャパン、日本経済新聞社、千葉県テクノアカデミー、東京農大など。 E-MAIL;aitani@aitani.com

Q. お客様が店の入り口で待っているときからすでに接客がはじまっているのですが、しかし現状ではおざなりにしている店が少なくありません。
Q. 並んで待っているお客さまに対して、有効なトークがありますか。
Q. 雑誌を見て行った店で、たまたま貸し切りのパーティーが開催されていたとき、後片付けを進めている場面に遭遇したら、お客様はどんな印象をもつでしょうか。
Q. 料理を流用されるのではないかという恐怖感を取り除き、フレッシュな気分にさせて、いかに気持ちよく入店していただくために必殺テクニックはありますか。
Q. オンリーワンになるポイントは情報の提供でしょうか。
Q. CS(顧客満足)を阻害する要因には何がありますか。
Q. 店によっては、フレンドリーな雰囲気を演出するためにタメ口で話す従業員がいますが、好ましい方法でしょうか。
Q. 従業員にCS(顧客満足)の追求を実践させるには、どんな教育が有効でしょうか。
Q. コミュニケーション能力はマニュアルで養成するには限界がありますが、能力開発にはどう取り組むべきなのでしょうか。

お客様に期待感を抱かせる必殺トーク

Q.お客様が店の入り口で待っているときからすでに接客がはじまっているのですが、しかし現状ではおざなりにしている店が少なくありません。

A.雑誌に掲載されるような話題のお店では、入り口で並んで待っている光景をよく見かけます。ウェイティングバーなどを設置している高級店は別ですが、価格もお手頃で話題店の場合、入り口に行列ができているのをよく見かけます。こうしたケースでは、並んで待っている時点で店への印象がつくられていきます。

 そうした接客による印象によっては、もう二度と行かない、と思うのか、また来よう、と思うのかが分かれます。お待ちいただいているお客様への接客が不親切でおざなりにしているお店では、リピーターとなって次回から来店していただけることは、ほとんど望めないと思ってよいでしょう。

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Q.並んで待っているお客さまに対して、有効なトークがありますか。

A.ケース・バイ・ケースで、トークには応用が求められますね。経験の蓄積も必要でしょう。「本日のおすすめのメニューです。いかがでしょうか」。あるいはワインリストを渡して注文を動機付けするとか期待感を高めることは大事です。

 待合いのスペースにメニューを立てかけておくだけの店は多いですが、立てかけておくだけではお客様に不親切です。待っている間に、どれだけ期待度を高めさせるか。それはCS(顧客満足)につながります。

 なぜなら、お客様は店に対してオリジナリティを求めています。お店のサービスコンセプトを明確にして他店との差別化ができること、そしてその期待に応える。それ以上に期待を越えるサービスを提供できれば、それは顧客満足につながりオンリーワンの店づくりにつながります。

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Q.雑誌を見て行った店で、たまたま貸し切りのパーティーが開催されていたとき、後片付けを進めている場面に遭遇したら、お客様はどんな印象をもつでしょうか。

A.私もたまにそういう場面に遭遇します。「もうしばらくしたら、お入りいただけます」と説明する従業員の表情はいつもあわただしかったりします。そんなとき、せっかく雑誌を見て探し当てた店であったのに「どうしよう?」、無意識のなかでは「もしかしたらパーティ料理の残り物を流用されるのではないだろうか?」という恐怖感もあったりするのです。

 とくに、こうした印象を女性客が抱くことは多いのです。せっかくのお目当てのお店であったはずですが、気分が変わって「すみませ〜ん」といって別のお店を探した経験をもっているお客様は多いはずです。ペア客のとき、大体は男性でなく女性がイニシャチブをとるものです。

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Q.料理を流用されるのではないかという恐怖感を取り除き、フレッシュな気分にさせて、いかに気持ちよく入店していただくために必殺テクニックはありますか。

A.入店前の状況をどこまで考えているか、ですね。ここから接客がはじまるのですから。そういう状況の場合はとくに丁寧なきめ細やかな接客が求められます。

 たとえばデートで、約束に遅れてしまったときのフォローに似ています。言い訳ばかりでは上手く行きません。いまからとても楽しいことがおこるような予感を与えられるかどうかです。

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CSの公式は〈100−1=0〉

Q.オンリーワンになるポイントは情報の提供でしょうか。

A.情報の提供はとても大きいです。たとえば食材に使用しているハーブがあって、それひとつでも大きな差別化につなげることができるのです。「ハーブの産地はどこで、どんな特徴があるのか」と丁寧な説明があれば、お店とお客様の間でコミュニケーションが成立します。お客様はそれを友人に話します。口コミで店の評判が広がっていくでしょう。

 オーナーや店長が、自店へのこだわり、熱い思いをどのくらいもっているのかで決まることです。料理を食べる前に「この店を選んでよかった」という満足感をいかにもっていただけるか。CS(顧客満足)はちょっとした手間で高められるのです。

 また、情報の提供に関しては、社員はもちろん、アルバイトにも食材などの知識を教育しておくことが大事です。お客様からメニューの説明を求められて、3つ質問されてひとつしか答えられないとき「アルバイトだろうから仕方がないか…」と寛大になってもらえるでしょうか?お客さまには社員もアルバイトも同じですから甘えは許されません。プロフェッショナルな意識は不可欠です。ひとつでも答えられなかったら失格です。

「飲食店のトップはサービスはスキルでなくコミュニケーションであると認識をすべき」と合谷氏は強調する。
 サービスの評判を得ることは難しいものです。CSの公式は〈100−1=0〉で〈100−1=99〉ではありません。ひとりの従業員の感じが悪かったら、他の従業員全員がどれほどすばらしくても台無しです。すべてに通じて店全体がマイナス評価されます。

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Q.CS(顧客満足)を阻害する要因には何がありますか。

A.よくあることですが、「うちの店の接客はよくできている」という思い込みです。話題のお店で業績が好調だと「できているつもり」になりがちですよね。CSレベルの高い差別化された店であると思いこんでしまいます。そうなった途端に間違いなく店は駄目になり、やがて競争力を失います。

 話題のお店、人気bPであっても「できているつもり」はつねに見直さなければなりません。お客様の期待を越えた満足感があって、はじめてお客様を呼べるのです。立地、内装、料理、価格などの水準をクリアして人気店になったら、そこからCSの追求に入らなければならないのに、そこで終わってしまう店が相当多いのです。

 浜辺にある1軒のラーメン店はCSがなくても、1軒しかないがゆえに売り上げるでしょう。しかし店側は人気店と思っているかもしれません。激戦地での人気店もそうした認識で「できているつもり」でいては、浜辺の店と同じレベルと評価せざるをえません。 

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喜びを引き出すことの快感、DNA教育をせよ

Q.店によっては、フレンドリーな雰囲気を演出するためにタメ口で話す従業員がいますが、好ましい方法でしょうか。

A.タメ口は行き過ぎです。危険な行為でしょう。フレンドリーな行為も行き過ぎたら不快感を与えます。勘違いしたフレンドリーな行為ほどセンスの悪いものはありません。言葉がフレンドリーでもマインドがフレンドリーでなければ無意味です。 

 男性が女性に対して「きれいだ…」「きれいだ…」と口にしても、女性の心をとらえることができますか?心からの賛辞でなければ相手に感動は与えず、逆に不快感を与えることをご存知でしょう。

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Q.従業員にCS(顧客満足)の追求を実践させるには、どんな教育が有効でしょうか。

A.トップのビジョン、自分の店への熱い思いです。情熱があるのかどうかです。一生懸命さは相手の心を動かします。そもそも接客とは、他人が喜ぶことをやってあげたいという心理から生まれています。

 自分にとって大事な人が喜んでくれたらどんなに嬉しいか、その喜ぶ顔が見たくてみたくてそれによる快感を得たくて、人はがんばることができるのです。接客はまさに“お客様の喜びを自分の喜び”にできるときに、はじめて充実感を得ることができるものなのです。

 誰でもがそうした喜びにより引き出される快感を実体験することにより、接客の奥深さを知り、プロ意識を醸成して、CSの意味を認識するようになるのです。遠回りのようですが、そうした本能(DNA)に近い喜びの追求がCSの追求であり、じつは売り上げ向上の大きな近道になるだと思います。

 数字の追求一辺倒はまさに遠回りであり、不毛というのが現実です。つねに店のトップは、サービスはスキルではなくコミュニケーション、感動にあるという認識をもつ必要があります。

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Q.コミュニケーション能力はマニュアルで養成するには限界がありますが、能力開発にはどう取り組むべきなのでしょうか。

A.確かにそうです。マニュアルは一定のサービススキルを醸成するにすぎません。それは決してお客様に感動を与えるものでもなく、お客さまの期待を越えるものでもないのです。

 接客のコミュニケーションは男と女のデリケートな関係と似ています。女性が喜んでいるのか怒っているのかを察知できずに、失恋を繰り返す男性がいます。感性が鈍いのです。また話をきちんと聞いていなくて、断片的な単語しか頭に入っていないために、ズレた反応を示してくる男性も少なくありません。女性から見れば「とんちんかんな返事?鈍い人かも〜」。こうしたタイプは接客には向いていないかもしれません。感性のレベルUPが必要ですね。

 マニュアルで解決できない、感性の鈍い人は「気の利かない」という評価になってしまいます。自分がやや鈍いのでは・・?と思っている方は、ともかく一生懸命に人の何倍も仕事をすることです。一生懸命さは時空感を越えて、理屈抜きに相手に感動を与えます。

 さて感性UPトレーニングです。私たちはともかく情動で動きがちです。単純に「好き嫌い、楽しい楽しくない、快不快」という具合に判断します。しかし、論理的で客観性をもった判断をするためには、それなりのトレーニングが求められます。

 キーワードは「主観の客観化」と「客観の主観化」です。

 主観の客観化とは、自分の感じ取っている主観を「客観的に見るとどうなのか」という第三者的な視点、見方を養うことです。こうした自分を見つめ直すトレーニングは「思い込み」を破壊させます。

一方、客観の主観化とは、さまざまな社会の事象、他人事を「自分の問題として受け止める感性」を養うことです。コミュニケーション能力を開発するには、まずは自己認識からスタートさせることが大事でしょう。まさに思い込みの創造的破壊でもあるのです。

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キャリアブレーンのHP

FOOD21編集部では過去1年、OLや主婦へのインタビューを繰り返してきた。その結果、料理の品質とほぼ同等に接客が重要視されている現実が鮮明になった。いかに味がよく、価格が手頃でも接客に問題があれば、それだけで「二度と行かない!」と回答する女性客が何と多かったことか。逆に、味と価格が許容範囲でさえあれば、接客次第で「また行きたい店」にもなる。客単価のアップをさほど望めない時代、客数のアップはリピーターの獲得で大きく左右される。その鍵が、合谷さんの説くCSなのである。

キャリアブレーン(東京都渋谷区)の本社ビル。1階のセミナールームでCSなどに関する種々のセミナーや研修が展開されている。
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